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Culture  Hour

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NHKカルチャーアワー
科学と視線「アンチエイジングの科学」

順天堂大学教授 白澤卓二
  聞き書き 田 村 銕 也



第11回「体力の限界に挑む」



 毎年エベレスト登山でいのちを失っている。ほとんど内科的に亡くなっている原因は高山病である。高山病を安全にコントロールできれば登山はかなり安全になる。どういう人が高山病になるかを事前に低酸素室で分かればいい、ということで、プロジェクトの目的は高山病になりやすい人を事前に遺伝子のレベルでチェックして検出しようということと、高山病を起こさないためにトレーニングを低酸素室でやるときに、その効果判定を遺伝子チップを使ってやっていこうと考えている。

 

 三浦さんは70歳でエベレスト登頂成功して75歳の登頂目指して、再びゼロからトレーニングを開始した、その後で心臓病があることが分かった。心房細動という不整脈があることが分かった。心房の部分で異常な電気信号が出てきて、たくさん不整脈が出るというもの。

 最初内科的な手法でコントロールしようと思ったが、山の上へ行くと不整脈が抑えきれないだけではなくて、内科治療に使っている薬は心臓、気管支に作用してくるので登頂するパフォーマンスに影響を与えることが分かり、エベレスト登山にはその薬は使えない。 そこで、最終的にカテーテルを使った心臓のアブレーション手術をした。アブレーション手術とは、不整脈を起こしやすい心筋の部分をカテーテルで電気凝固して焼き切ってしまうというもの。最初70〜80箇所焼き切る手術をした後に4000メートル級の登山をしたが、不整脈が出たので、さらに2回目の手術をし、おそらく100箇所は焼き切ったと思われる。本番エベレスト登頂のときはほとんど不整脈は起きなかった。

 ずっと心臓モニターをしていたが完全に不整脈は抑えられて起きなかった。ちょうどベースキャンプから望遠レンズで登頂した姿が映像に映った。それほど天気が良かった。サウスコル側から登頂したが、最終キャンプから登っていくところに「ヒラリーステップ」という難所がある。3箇所ある難所の最後のものだ。5年前は曇っていたのできれいに映像として録れなかったが、今回はきれいにカメラに収まった。三浦さんは、5年前には出ていなかったヒラリーステップに岩肌が、地球環境の変化、温暖化でここまで岩肌が出てきてしまったという。

 最後の登頂をはじめてから天気がよかったので、頂上から360度きれいに地球上が見えたと非常に喜んで、コメントで「涙が出るほど苦しくて辛くて嬉しかった」と。75歳の人がエベレストに登るのは至難のワザだが、本人の登りたい気持ちがここまで来た。

 三浦さんがよく言う言葉に、何で登るのかの問いに「そこに山があるからだ」という日本語訳は間違いで、英語は「Everest it's there」であり、「そこにエベレストがあるからだ」が本当の訳だと彼は言っている。どこの山でもいいというわけではない。エベレストに意味があるとこだわっておられる。

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