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Culture  Hour

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NHKカルチャーアワー

科学と視線「アンチエイジングの科学」

順天堂大学教授 白澤卓二
  聞き書き 田 村 銕 也

第2回「老化のプロセス

 前回は、人の寿命を決める要因の75%は環境要因であることを説明した。環境要因の最も大切なことは「食事、運動、生き甲斐」の3本柱であり、努力次第でこれは何とかなる。

 それをよりよく理解するためには、「老化のプロセス」を十分理解することが必要だ。食事・運動・生き甲斐が、老化のプロセスにどういう影響を及ぼすのかを理解して自身の老化をコントロールすることが大切だということを話したい。

 人の皮膚を見るとだいたいどれほど老化が進んでいるか分かる。若い人は表皮が厚く、真皮もコラーゲンやエラスチン繊維組織が規則正しく並んでいるのに対し、老化すると表皮が薄くなりエラスチンが不規則となる。これが原因で弾力がなくなり皺とたるみができてくる。 究極の治療としては、この皺とたるみを縫い縮めてしまう美容整形がある。たるんだ部分を外科的に除去してしまうという姑息的な手段だ。

  ではどうするか。

 皮膚細胞をアンチエイジング、若返らせてあげるということが根本的な対応法になる。

テロメアとは?

 年をとると皮膚細胞にどのような変化が起きるか。

 テロメアというのは染色体の末端にある遺伝子で、その構造の長さがだんだん短くなってくる。最近はテロメアを染めることが出来るようになったので、顕微鏡でテロメアがどの程度残っているかを見ることが出来るようになった。年とった人からテロメアをとってくるとあまり染まってこない。若い人はたくさんテロメアが染まってくる。年をとると次第にテロメアが短くなって減ってくる。すると細胞が分裂できなくなって老化をする。老化すると十分コラーゲンやエラスチンを分泌できなくなって、皮膚の弾力が出なくなることが分かった。 テロメアが機能してくれればいいのだが、死なずにじっとしている。試験管の中でもじっとして死なない。一言でいえば粗大ゴミのような細胞だ。本当はなくなって新しい細胞と置き換わってくれればいいのだが、そういうことも出来ない状態にある。

 こんな細胞がたくさん身体の70兆個の細胞の中にどんどん占めてきたら機能できなくなる。テロメアがどんどん短くなるから、時間が過ぎればもう老化は避けられないと考えられてきた。しかし、最近だいぶん考え方が変わってきて、3年ほど前、テロメアは生活習慣によって長さが変わるんだという論文が出てきた。

 ロンドンに住んでいる18歳から76歳までの1122人の女性の白血球のテロメアを調べた結果だ。年齢順に並べてみたところ、毎年27ベースペア(長さの単位)ずつ徐々に短くなってくることがわかった。これは昔から年とともに短くなるといわれていたから驚かなかったけれど、1122人の中から太っている人だけを抽出したら、痩せている人より270ベースペアも短かかった。つまり10年分も短かったわけだ。太るだけで寿命が縮む。

 もうひとつ、タバコを吸っている人を同じように抽出して、吸わない人とのテロメアの長さを比べてみたら、一日1パック吸ってる人は5ベースペア短い。10年間吸っていたら50ベースペア、つまり2年分短くなってしまう。というようなことが分かった。

 テロメアというのは今までは年をとると短くなるだけの話だとされていたのが、そうではなくて、肥満とか喫煙とかによって短くなるんだと、逆に言えば、肥満を治せば、タバコをやめれば、テロメアの長さは温存できる。最近は運動することによってもテロメアの長さが保てることが分かってきた。

  なぜテロメアの長さが肥満や喫煙で変わるのか。細胞の中でおきている酸化ストレスとか炎症がテロメアに関係している。細胞分裂にももちろん関係している。

 肥満と言うのは、最近では「炎症」であるということが分かってきた。太ることは体重が重いということではなく細胞の中に炎症が起きている、その炎症によってテロメアも短くなっている。

 人の皮膚から細胞をとってくるといろいろ老化のサインが見える。テロメアが一番分かりやすい老化サインだ。ただし、肥満、喫煙等の生活習慣もテロメアの長さに関係する。もっと重要なのはテロメア以外の部分、遺伝子がたくさん入っている部分に、結構キズが入っている。年をとればとるほどキズの量が多くなっている。

 つまりDNAのキズは年をとると増えてくる。テロメアが短くなるのと似ている。テロメアが短くなると細胞が分裂できなくなって、機能しなくなり粗大ごみのようになる。しかしそれだけでは済まない。キズが蓄積すると細胞がガン化してガンが発生する。年をとるとガンが増えてくるのは若い頃のDNAのキズがだんだん蓄積して多くなり、にっちもさっちもいかなくなったときに、この細胞がガン化する。

 

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