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Culture  Hour

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NHKカルチャーアワー

科学と視線「アンチエイジングの科学」

順天堂大学教授 白澤卓二
  聞き書き 田 村 銕 也

第3回「長寿遺伝子サーツーをONにする」

今日の話題は「長寿遺伝子をONにする」。長寿遺伝子という言葉を始めて聴く人が多いと思うが、長生きになる遺伝子ということだ。
 長寿遺伝子は、長生き出来る人だけが持っているのではなく、全員が持っている。
ところが、この遺伝子はスイッチをONにしないと働いてくれない。長寿遺伝子サー2をONにしないと長生きできない。「サーツー」は遺伝子の名前である。
 この長寿遺伝子が発見された経緯を説明する。

カロリー制限で寿命が延びる
 
動物をカロリー制限する、平たく言えばダイエットのことだ。ダイエットというとすべての食事をカットすることだが、「カロリー制限」というのはビタミンとかミネラルは制限しない。カロリーだけを制限しているので言葉を選んでいる。カロリーを持っている炭水化物、たんぱく質、脂質を制限する。ビタミンや食物繊維が豊富な野菜などはカロリーがないから制限しない。
 この実験をいろいろな動物でやってみると、寿命が延びる。たとえば、ミジンコ1.7倍、サラグモ1.8倍、グッピー1.4倍。それから哺乳動物のラットもカロリー制限して1.4倍と延びた。どの動物でやってもカロリー制限すると寿命が延びている。だから実験できないが人間もカロリー制限すれば寿命は延びるだろうと思われる。
 問題は、@どれくらいのカロリーにしたらよいのか、A制限すれば自分はどれくらい寿命は延びるのかだ。

 実験しない限りは正確な答えは出せないから推測になるが、どのくらい延びるかについては、一番近い動物ラットが1.4倍であることから考えて2〜3割だろう。平均寿命85歳の時代だから15〜20年延びると100歳になる。15年延びるだけで相当生活も変わる、大きなボーナスになると考えると、仮に平均寿命が15歳延びるなると、かなり医学の勝利に近い。
 平均寿命が100歳ということなので、栄養、カロリーの摂り方は大きな医学上の問題だということだ。

 ではどれくらいのカロリーを摂ったらいいのか。この実験では、「食べたい放題」の6割から6割5分ぐらいでやっている。食べ放題に食べたときにどれだけのカロリーになるか、1週間ぐらいやってみて自分の最大量を把握して、その7割くらいにすることは可能かもしれない。しかし、食べ放題も人によって変わるので、あてはめるのは難しい。実践的にどのくらいのカロリー制限が寿命を延ばすのかという結論は出ていない。まだ動物実験のレベルの話であることを理解してほしい。

アカゲザルの実験

アメリカでは、アカゲザルを使って実験している。アカゲザルは人間の身体に近いので、起きてくる病気もかなり近くなってくる。例えば認知機能、アカゲザルは30歳くらいまで生きるので、アカゲザルの寿命を検証する実験をしているが、40〜50年かかるのでお金も時間もかかる。
 この実験はもう1980年代から始められて30年近く経つが、その経過の説明になる。カロリー制限しているアカゲザルは人でいえば70〜80歳くらいになっている。寿命は見えてないもののかなり高齢になってる。
 ウィスコンシン大学の研究では、成長期が終わったアカゲザルを二つのグループに分け、一方はカロリー制限して、もう一方は普通の餌を食べさせた。制限した方の体重は横這いであり、普通の餌を食べたグループの体重の60%だった。体重の40%は成長期が終わってから余計に食べた分が身体の中にだぶついているということになる。
 みなさんが20〜25歳のころの体重を今の体重から引き算して、プラス10〜15キログラムになるようなら、アカゲザルの例のように余計に食べたものが身体のどこかに溜まっているというわけだ。

 長寿遺伝子が、カロリー制限しているアカゲザルで「ON」になっていて、普通の餌を食べている方では「OFF」になっているということが分かった。長寿遺伝子は老化のプロセスを制御している。老化というのは、紫外線とか酸化ストレスによって遺伝子がキズついて進行するが、どうもそれを長寿遺伝子がコントロールしているらしい。
 今まで寿命を延ばすには、カロリー制限するのが唯一の方法だと考えられていたが、それが遺伝子のレベルで研究されるようになった。

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