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NHKカルチャーアワー 科学と視線「アンチエイジングの科学」 順天堂大学教授 白澤卓二 |
聞き書き 田 村 銕 也 |
第5回「長寿のバイオマーカーを探る」 アカゲザルを、カロリー制限をしているグループと、していないグループに分け、採血してみると、制限しているグループには、3つのバイオマーカーが動いていることが分かった。 1 体温が低い 2 血中のインスリンホルモン濃度が低い 3 血中のDHEAホルモンが高い 私は長寿バイオマーカーと呼んでいる(アメリカでは若返りホルモンと呼ばれている)。 これら3つは何を意味するか。 アカゲザルだけではなく人でもこの3つのバイオマーカーは長寿に関係している。 アメリカの「ボルチモア長期縦断研究」の研究から分かったのだ。ボルチモア市に住んでいる65歳以上の男性700人を25年間追跡調査した。65歳の人を90歳まで毎年採血し続けたというわけだ。時間も金もかかる。準備と解析の期間を入れると30年くらいかかる。 この調査の結果分かったことは、体温が低い方が高い方より長生きの傾向がある、インスリンの血中濃度の低い人が長生きの傾向がある、副腎ホルモンDHEAの血中濃度の高い人が長生きの傾向がある、ということで、カロリー制限をしたアカゲザルとまったく同じデータが出た。 だから、人でもこの3つのマーカーを見ていくと長生き出来る人を予測できるかもしれない。カロリー制限をすると長生きすることから、バイオマーカーが示しているところは身体が長寿モードに入っている可能性を意味している。 人では実験出来ないが、個人的に実践している人がいる。日野原先生(当時94歳、(財)ライフプランニングセンター理事長日野原重明氏)は、長年カロリー制限を実践しておられるので、お願いして血液を採らせてもらい、長寿バイオマーカーがどうなっているか調べてみた。 ある日の日野原先生の食生活をチェックしたら、朝は野菜ジュース、昼はビスケットもしくは牛乳ときわめて少食だが、夜はしっかり食べている。この日はステーキだった。こういう咀嚼力が必要なものを好んで食べるというのはそれなりに咀嚼力があるということだ。90歳過ぎてステーキを食べる人はかなり元気だ。ステーキのほか野菜と味噌汁にご飯ということで、カロリーも栄養素も夕食で稼いでいたことになる。 カロリーは結構計算されていて、1400〜1500キロカロリーとかなり抑え込んでいる。先生は自分の基礎代謝を測っている、1300くらいだ。講義や診察にあまりカロリー使っていないから1400くらいで良いと言っている。もう少し若い人だと基礎代謝が高いからこれではもたない。先生は階段も歩いて昇っているから運動も相当していると思う。先生の体温は35度台、ほとんど低体温だった。インスリン濃度は低かった。高齢者200人の数値と比較してもダントツに低い。
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